精神疾患にヨガができること
2020年には鬱や不安は世界的な健康問題になると言われています。そして、2030年には世界的な社会負担になると言われています。精神疾患における薬の効果は33%しかないと言われ、鬱と不安の混合症状が問題を更に深いものにしています。
【うつは身体のしんどさの問題でもある】
不安と鬱だけが単独で存在するわけでなく、実際これらの症状を抱える人は身体にも何かしらの不調を訴えます。つまり、精神疾患は臨床現場では「不安と鬱」とされ、身体のことについてはほとんどふれられることがありませんが、精神だけの疾患ではなく、Mind & Body の問題だということです。抗うつ剤は神経回路に働きかけ、不毛なグルグルを止めてくれる、あるいは和らげてくれるかもしれますが、身体のことについてはどうしようもありません。むしろ身体に対し副作用が出ることすらあります。
【ブレーカーが落ちるだけじゃ済まない】
精神疾患は神経システムのオーバードライブといわれています。
感情のバランスがとれているとはどういうことでしょうか。あるいは、メンタルタフネスとはどういうことでしょうか。
それは、家の電気システムに似ています。
電子レンジと洗濯機とエアコンとドライヤーを一緒に使ったら、どうなるでしょうか。ブレーカーがあがるだけで済むのならいいのですが、ブレーカーという安全装置も働かなくなれば、システム自体が壊れて(死)しまいます。
【自分を観察するのはどんなこと?】
精神機能の目安にはどういうものがあるでしょうか。認知に関するもの、行動に関するもの、感情に関するもの、人間関係に関するものなどがあると思います。これらの働きをもっともわかりやすく反映しているのが心拍数です。
メンタルヘルスをみていくときに、どんなことをベースラインとして確認したらいいでしょうか。
- 身体のエネルギーレベル(どんな感じか)
- 心のスピード(焦り具合など)
- 神経経路の安定感
- 呼吸の質
- 自分の軸とのつながり
- 感情
- 痛み
そして、ヨガのプラクティスをしてみて、どう変わったかを見ていきます。
たとえば、呼吸を少し変えてみましょうか。
吸って、吸う息の二倍の時間をかけて、息を吐く、ということをしばらく続けてから、上記の項目がどのように変化したかを見てみましょう。
【猫背というよりなんだかカッコいい?きみってカイフォシスだね】
ヨガのプラクティスということをもう少し掘り下げていくと「姿勢は気分に影響する」ということになります。英語でいうと、カイフォシス、つまり猫背の問題です。
首、胸筋、肩にかけての軸は、呼吸の通り道であるだけでなく、神経回路に情報を伝える重要な部位であり、痛みの伝達と感覚に関する場所でもあります。リンパの流れ方をも変化させます。また、呼吸のあり方自体が神経回路に影響を与えます。それほどまでに背骨のあり方は私たちの心の状態に影響を与えるのです。これには、別なコラムで書きますが「階段を後ろ向きに登っていく」アプローチが生きてきます。つまり首の位置をタイムマシンを戻すように、本来ある位置に戻していくわけです。
階段を後ろに登るアプローチはこちらから
http://medical-yoga.luna-works.com/column/archives/372
【大人になってからでは遅すぎる】
私たちは子供の頃に、体育や生物の授業はあっても、自分の身体や心の内面を意識する時間をもつことはありません。自分とは、自分の心とは、身体とは、ということをもっと身を以て経験する機会があれば、私たちが大人になってから、自分を見失うことがどれだけ防げるかもしれません。
ヨガはポーズだと広く一般には思われていますが、ヨガという三角形の土台にあるのは命への気づきであり、その上に呼吸が乗り、ポーズは氷山の一角なのです。
【意味深すぎない方がいい】
非常にしんどいとされるような体験に意味を持たせすぎてしまうことが、人を鬱に向かわせるともいわれています。今この瞬間目の前で起こっていることを善悪の判断抜きに観察するという「マインドフルネス」というアプローチはまさにこの真逆で、ものごとに意味を持たせないことで神経の負担を減らします。
ゆっくりとした動きの中、今心や身体の中で起こっていることに意識を向けていくマインドフルネスムーブメントというのもひとつの手法です。精神疾患を抱えている人の多くが、速く動かないときが済まなかったり、目がいつも開いていたり、亀のようにガードが固かったり、地に足がついている感覚が薄かったりします。
ゆっくりと動かすこと、目を軽く閉じてみること、肩の力を抜くこと、身体や足の裏をしっかり地面につけて、大地とのつながりを感じることは、抗うつ剤よりも気持ちの変化をもたらしてくれるでしょう。
【免疫の非常警報】
病気は、免疫の非常警報です。免疫とは異物から自分を守る仕組みです。精神疾患は、自分と他者をへだてる「境界」のトラブルでもあります。ですから、このバウンダリーに働きかけるアプローチが生きてくるわけです。自分って何だろう、世界って何だろう、ということを頭ではなく、おなか、つまりBelly Brain 腹の底で感じられる、腹式呼吸のようなエクササイズもひとつのアプローチです。吸う、ということは自分の外側を内側に招き入れ、吐く、ということは自分の内面を世界に放出する、そのやりとりで私たちは生きています。
【神経と仲がいいのは】
筋膜には、筋肉の10倍以上神経がついているといわれています。筋膜が緊張していると、神経も疲れてしまいそうですね。筋膜をリリースすることが、感情に与える影響。マッサージに行った帰りは、心が軽くなる、というのはあながち嘘ではないわけです。
【姿勢と動き方を変えてみよう】
このように、私たちの姿勢と動き方を変えてみることが、うつ症状を変えていけるかもしれないのです。呼吸に意識を向けることは最もシンプルで簡単なマインドフルネスですが、誤解を怖れずにいえば、ヨガほどうつに歩み寄り寄り添えるエクササイズは他の運動や薬剤をもってしてもないのではないかと思います。